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部分と全体

部分と全体


先日の稽古でのこと
生徒さんに鏡に向かって肩幅の平行立ちで立ってもらった。その両足を動かさずに一気に全体重を右か左の片足だけに預けるようにしてみてください、と指示した。当然、鏡に映る自分はピクリとも動かないのであるが、全身の筋肉がひとつの目的のために瞬時に協調して動いたという事実を体感することができる。

私の教える中国武術の大切な技術というのはこういうものだ。立っているだけ、歩いているだけ、のようにしか見えないが、全身の協調力を鍛えていく。だから目標とする動作の未体験の感覚を豊かにイメージすることが、上達の上でとても大切になる。料理でいえば、これまでに味わった食材とその組合せから得た経験と感覚を元に、食べたことのない料理を楽しんだり作ったりするのに似ていると思う。

別に特段神秘的なことをしているわけではなく、身近なことをいつもとは違う角度から意識してみるだけである。

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科学的思想の根幹が「分かる」という一言に表されている通り、その特性は混沌を白か黒に「divide 分ける」ことにある。しかし、生きていると白か黒にはっきり区別できないグレーなことが多くある。まただからこそ、キチッと分けることで色々なことの効率は非常に良くなる。

ザックリ言えば、西洋思考はプラスかマイナスか? 善か悪か?についてもはっきりと分けたい傾向にある。

中国ではこれとは対照的に、分けることよりも全体の調和を先に重視する思想がスタンダードだった。単純に善か悪かではなく、全体を構成する要素を陰と陽と表現した。

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例えば中国では、風邪を引くと「よかったね」と言われることがある。人の身体は陰と陽のバランスがとれている状態が健康とされる。陰にマイナスイメージはない。陰が不足しても病気になると考えるからだ。風邪を引くのはそのバランスが崩れたからであり、また同時に崩れたバランスを平衡に戻そうとする働きの表れが風邪である。だから、時々風邪を引くくらいだと逆に大病をしないという考えがある。

一方、古典的な西洋医学では、風邪をひき熱が出れば解熱剤を処方し、頭痛がすれば鎮痛剤を飲ませる。患部は切除する。対処療法である。それが如何に優れた方法であるかについてはここでは振り返らない。それは部分的な症状を抑え込むのであり、風邪や癌の根幹を治癒するわけではない。

こうしたやり方は10点満点を健康状態と仮定し、そこから減点方式で悪い症状をカウントするとでも言えるだろうか。足りない部分ごとに補う、減点部分を消去するよう対処する。

中国医学は、同じ10点でも、-5と+5の合計と考え、0が健康状態と考える。そこには単純にマイナス数値が悪い、あるいは逆にプラス数値が悪いといった固定的な定義はない。

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人は、器用に指を使うとか、手で道具を使うというように、身体の一部分を全体から切り離して使うことで脳が急激に発達した。だから、そうした動作を意識してコントロールすることは得意だ。けれども、逆に身体全体が調和した動作を生み出すために部分をわずかずつ調整して動かすことに慣れていない。

動物はいつでも無駄に力まず、柔らかく、優雅に、当たり前にこうした動作を行う。美しい。

実は人は誰でも日常的に同じ種類の動作を行っている。ただ意識の外に置いてきている、だから覚えていないだけだ。それは動物と同じで意識して作り上げた動作ではないからだ。

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脳卒中に見舞われたアメリカ人脳科学者が体験をつづった書「奇跡の脳」が日本でも反響を呼んだ。Ms.テイラーは脳卒中により左脳の大部分が働かない症状を体験した。左脳は世界を分断することで認識する。言語機能、理性、時間感覚を司るといわれる。右脳は全体を形状として認識する。芸術脳と言われる。Ms.テイラーは自分と外界を分かつ境界線(つまり空気に触れる皮膚面)が分からなくなり、自分の命/エネルギーと自分を取り囲む自然に流れるエネルギーを分かつことのない状態を感じた。つまり自分という囲いがなくなるのを感じた。

そろばんの達人。暗算の天才の脳波を調べると、あろうことか右脳が強く反応する。通常、数字は左脳で認識するものだ。右脳と左脳の働きが通常と異なる働きをするのは、偶然病気になった人だけのことではない。

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八卦掌の稽古といっても、ただ立ったり、歩いたりしているわけではない。美しい動作の連続である套路を学びながら実戦での攻防の感覚を養う。形を学ばなければ套路にはならないが、その技が効くか効かないかは、形に見えない動作を如何にして身につけたかにかかってくる。その形には表れにくい動作を複雑な套路の動きに染み込ませていく。

福岡八卦掌教室 指導員/大和晋(やまと しん)
HP http://baguazhang.web.fc2.com/
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